これは、琉球大学地域医療部の武田裕子先生が主催された、「医療面接セミナー」に参加した時のメモをまとめたものです。中医学とは直接の関係はありませんが、東西問わず医者として働く人間は身につけておくべきスキルなので、ここに入れます。というか、4年生の終わりに「OSCE」と呼ばれる実技試験が在るので、どのみち勉強する事になります。 もちろん、これが絶対的に正しいやり方という訳ではありません。病院毎、あるいは医者個人毎に方法論はあることでしょう。一つの例として、考えてください。 地域医療部では、毎月1回ほどの割合でセミナーが開かれています。次回からメーリングリストで流しますので、興味のある人は学年問わず参加してみましょう。無駄にはならないかと思います。 |
1.医療面接の目的 | |
医療面接の目的として、以下のようなものがあります。 ○情報収集 当たり前ですが、必要な情報を集めましょう。情報不足での性急な診断は誤診の元です。 ○信頼関係の確立 信頼できる人と出来ない人、どちらにより多く深い内容について話すでしょうか。一度しか合わない人はともかく、患者さんと長い付き合いになりそうな場合は特に信頼関係を作っておくことが重要です。まあ、医者に限らず対人関係全般にいえることですが。 ○治療的な側面 訴えを聞いてもらう、ということで精神的な負担が軽くなる点が意外と重要だそうです。 ○情報提供 医者側から出来る情報提供、例えば介護制度の存在など、患者さんのQOL改善に役立ちます。 結局のところ、一般社会でのコミュニケーションと大きな差異はありません。言うは易し、行うは難し、ですが。 |
2.面接に入る前に | |
医者が一人、という状況が前提にあります。 まず、患者さんの名前を呼びを迎え入れます。このとき、扉を患者さんに空けさせるのではなく、医者が開きます。で、患者さんが入ってきたら閉めましょう。プライバシーの点から、扉を閉めることは必須のようです。 当たり前ですが、控えめな笑顔で。怒った顔をしたり怖い顔をしたりしていたら、患者さんもビックリするでしょう。元が怖い顔の人は、まあ何とかしてください。 で、椅子に座ってもらいます。このときの医者と患者の椅子の角度ですが、 こういう感じらしいです。これは臨床技能の教科書にも載っているのですが、なんでなんですかね? 今回は質問し忘れたので、次回のセミナーで確認してみます。 患者さんと医者の距離は、身体診察の出来る距離、つまり手の届く範囲でってことらしいです。当然、視線を合わせられるように座りましょう。顔も見ずに話すのは、医者として以前に接客業として大いに問題があります。 |
3.挨拶 | |
1.本人の確認 非常に基本的なことです。基本的過ぎて忘れがちになるかもしれませんが、特に総合病院の外来では医療ミスの元になります。沖縄では同姓同名が多いので、患者の取違を防ぐためにはこれを怠らないようにしましょう。 名前と、同姓同名でない事を確認するために生年月日も話してもらった方がよいようです。名前や生年月日はカルテに記載されているので、間違いがないかチェックしましょう。 2.自己紹介 「本日担当いたします○○です」など、良識に則って行いましょう。当たり前ですが、相手の顔を見ながらです。 |
4.面接 | |
1.主訴 「今日はどうのような事でいらっしゃいましたか?」という風に、来院理由を聞く事から始めましょう。ここでは、回答の仕方を患者にゆだねる開放型質問を行います。 次に、話を進めていきながら、「食欲はありますか?」「ここに痛みはありますか」などなど「Yes or No」の形式で答えるような閉鎖型質問に移行します。 この間、「それは大変ですね」などと患者さんに共感を示すようなコメントを挟むとよいそうです。ただし、あまり投げやりだったりわざとらしかったりしたら、反って怒らせるような気がするのですが・・・。 2.現病歴の聴取 次に、話を進めながら現病歴の確認を行いましょう。現病歴の確認は、「OPQRST」と覚えておくとよいらしいです。 O:onset いつから P:provocative or palliative 悪化or寛解因子 Q:quality 性状 R:region 部位 S:severity 重症度 T:temporal characteristics 随伴症状 "onset"は、症状がいつから発生したか、どのように経過してきたか、ということを確認します。 "provovative"は、その症状を発生させるような要因が在るか、例えば「動くと痛みが増す」という風に。 "palliative"は、その症状を軽減させるような要因が在るか、例えば「休むと痛みが引く」など。 "quality"は、その症状の特徴について聞きます。痛みでいえば、「鈍痛」「刺すような痛み」などなど。 "region"は、その症状のみられる部位について聞きます。 "severity"は、その症状の量や程度について聞きます。痛みを例にとると、「経験した事のない激しい痛み」「ハンマーで殴られたような痛み」、「一日中痛む」などなど。 "temporal characteristics"は、同時に生じる症状などについての有無などを確認しておきます。 3.既往歴 過去に罹患した疾患、外傷や手術歴、入院歴、主訴とは無関係だが現在も治療中の疾患、などについて患者さんから聴取します。医療面接を見ていると、患者さんは年代順に話してくれるとは限らないようですが、メモするときは年代順に並べておいた方が分かりやすいかも。 4.薬歴 服用している薬剤名と量、用法については必ず確認しておきましょう。常用薬とこちらで処方した薬が相互作用を起こしたりするかもしれません。また、以前に薬物治療が中断された事があるかどうか、なぜ治療中断となったのか、ということも聞いておきましょう。 「漢方薬」「市販薬」は薬と認識されていないこともあるらしいので、頑張って聞き出しましょう。 5.アレルギー 重要です。見落とすと、時に致命的な結果を生んでしまいます。 6.家族歴 現病歴と類似した疾患を持つかどうかの確認、あるいは家族性を有する疾患を鑑別するための情報として重要になります。 7.生活環境 職歴、生活スタイルなどを聴取しましょう。職業特有の疾患があったり、生活スタイルの乱れが原因となったりしていることがあります。喫煙、飲酒、性行為などについても確認すべきだそうです。いささかプライバシーに踏み込む事になりますが、十分な配慮の上で可能な限り情報は収集しておいた方がよいかと思います。 また、家族内に介護を必要とする人がいて、そのストレスが原因になっている場合など、医者側から支援体制についての情報提供を行うことで環境改善が図れることもあるので、注意して聞き出しましょう。 |
5.鑑別診断について | |
学生の身にして疾患知識が決定的に乏しいのですが、方法論だけ書いておきましょう。 これは!、と疑う疾患があったら、 "pertinent positive" ⇒ 疑った疾患を補強する情報・所見 "pertinent negative" ⇒ 疑った疾患を否定する情報・所見 以上のようなものを得るための聴取を行います。 で、このために何が必要なのか。それはすなわち色々な疾患の特徴が頭に入っていることでしょう。勉強する事って大切なんですねえ。 |